空族最新作 [BANGKOK NITES – バンコクナイツ ]
Cinema Report  by 鑑賞池

「国道20号線」「サウダージ」で知られる空族の最新作「バンコクナイツ」。

今作の舞台は,バンコクはタニヤ通り。そして「イサーン」である。
そこで、「娼婦」「楽園」「植民地」を軸に描く物語。

実に空族らしいチョイスである。

まず、タニヤ通りをめぐるストーリーであるということについて。

日本人相手にのみ成立してしている歓楽街というその特殊性は、これは今までの空族のテーマに沿っているだろう。

極限にギラギラした世界。そこにある哀愁、リアル。

このようなものを描く事において,空族が当代において他の追随を許さない映像集団であることは間違いない。

そして、いままでカメラが潜入したことのない、タニヤ街にて撮影を敢行したというのは彼らでなければできない展開であろう。

そしてもう一つ、「イサーン」をめぐる物語でもあることについて。

これはタイ東北部のエリアを示す名称である。

ご存じない方もいると思うが,かつてイサーン王国というものがあった。ラオスとタイ東北部がイサーンであり、タイでありながら,その文化はバンコクとは全く違う,言葉も方言というレベルを超えて違うようである。

しかし、イサーンからバンコクで働く人は多く、そこには差別も存在している。その記述はやはり避けられないものであったのだろう。

そんなイサーンは、人々を魅了し、そして様々なとらえ方をさせる。

たとえば、タイの誇る映画監督アピチャッポン・ウィーラセタクンの描くイサーンは曖昧、許容のある、いわゆる東南アジア的価値観が支配する世界であるといえよう。ピー(精霊)がいて当たり前の混沌である。

しかし今回空族が描いたイサーンは、楽園でありながらも、アウトサイドかつ虐げられた植民地としてのアジアのエッジさであった。そこに響き渡るイサーンの伝統音楽モーラム、ルークトゥン。混沌ではあるが、そこにあるのはギラギラしたエッジであるように感じた。

私はその描き方について、あえてバンコクから、または、もっと外側から「イサーン」を観ているような気すらしたのだが私はイサーン出身でもなければ、タイに住んでいるわけでもない。

これはわかることのない問題なのかもしれない。

どこにも所属することができない、地に足が付かない者達をめぐる、そしてそのなかでも、更に地に足を付けられない主人公オザワをめぐる物語。

本作が意欲作であることには間違いない。

BANGKOK NITES 空族最新作「バンコクナイツ」

http://www.bangkok-nites.asia/


構想10年―満を持して『サウダーヂ』の空族が放つ富田克也監督 最新作『バンコクナイツ』。イサーン音楽に乗せてお贈りする、桃源郷を求める旅が、今はじまる。2月25日(土)よりテアトル新宿、横浜シネマ ジャック&ベティほか反撃のロードショー開始。