本業はインテリアデザイナーでありながら、キャンパーに絶大な人気を誇るアウトドアギアを発進する「38explore(サーティーエイト・エクスプロー)」の主宰でもある宮崎秀仁さん。

小学校5年生で初めて槍ヶ岳登山を経験したところから、アウトドアライフが始まり、今ではデザインするギアがキャンパーからの揺るぎない支持を得るガレージブランドのプロダクトデザイナーとして活躍中です。

今回は「38explore」のベースとなる、宮崎さんのクラフトマンシップに迫ります。

仕事も趣味も、“ものづくり”を楽しむマインドがベース。

まずは宮崎さんがアウトドアを楽しむようになったきっかけを教えてください。

宮崎さんの手作りのデスクでインタビューを行いました。

小学校5年生のときに、当時の恩師に登山の楽しさを教えてもらって。今でもそのときに連れていってもらった槍ヶ岳登山で感じた匂いを思い出すほど、当時の経験は強く印象に残っていて、アウトドアに足を踏み入れたきっかけにもなりました。その後、20代は東京で働きながら、サーフィンを始めたことがきっかけで、サーフトリップのキャンプを楽しむようになりました。30代は仕事が忙しく一度離れたんですが、40代になってからまたアウトドアの世界に戻ってきました。

小学校5年生から使っているコールマンのストーブ。

20代のときから、すでにアウトドアギアにはこだわっていたんですか?

当時はどこで買っていいかもわからないし、種類も全然なくて、ホームセンターで良さそうなものを見つけては、既存商品の色を自分で塗ってみるくらいでしたね。

昔はあまりギアの質もビジュアルも良くなかったし、所有欲が満たされるものは多くなかったので、ちょっと手を加えたら愛着が湧くかな、という軽い気持ちで楽しんでいました。

小さい頃から“ものづくり”が好きで、今もインテリアデザイナーをしていますが、設計事務所での勤務、電気工事、そして、大工も経験してきているので、「こんなものがあったら便利だな」と思ったら、アウトドアギアも自分でカスタムしていました。

今の「38explore」のベースはその頃からあったのですね!

幼少のときから絵を描いたり、楽器を弾くことが好きで、高校はデザイン科があるところへ進学したくらい、ものづくりが好きというのは根底にずっとありますね。

今まで経験してきた仕事でも、自分で設計したものは、自分で監督をして、場合によっては自分で手も加える、というスタイルでやってきたので、それが「38explore」の活動にも生かされているんだと思います。

「もっとこうだったらいいな」をカタチに。

本格的にアウトドアギアを作りはじめたのは、どんなきっかけだったのでしょう?

30代はアウトドアから離れていたんですが、2015年くらいにガレージブランドをやっている友人とふもとっぱらキャンプ場に行ったんです。

ちょうどノルディスクなども入ってきたころで、キャンプ場で見かけるギアも昔と比べ随分かっこよくなったな、とそこで初めておしゃれなキャンプを知って(笑)。それを契機に、昔とは違う雰囲気でもう一度キャンプを楽しみ始めた中で、使うギアの細かい部分に目がいくようになり、「もっとこうだったらいいのにな」と感じたものを自作しはじめたのがきっかけでした。

宮崎さんの代表作「38パレット」は、どんな「もっとこうだったらいいのに」が形になったのでしょう?

38パレット

僕はインテリアの仕事上、現場の写真を撮るために普段から三脚を持ち歩いているんですね。施工現場にはそもそもテーブルがないし、部屋がいくつもある現場だとパソコンや図面を一箇所に広げられないから、その三脚に天板をつけて、現場内では持ち歩く作業テーブルとして使っていたんです。

一方でキャンプに行くと、SNSで知り合った人と情報交換したりするので立ち話をする機会が多かったり、ローテーブルで食事を作るよりも立って調理する方が楽だと感じたりして、「ここでも三脚テーブルがあったら便利かもしれない」と思って。

それで現場で使っている三脚テーブルをキャンプにも持っていくようになったんです。

そうしたら、周りから「それどこのですか?」と聞かれるようになり、自分で作ったことを伝えると、「作ってほしい」という言葉をもらうようになったのがきっかけですね。

なるほど!元々違う用途で使っていたものが、ベースになっていたんですね。アウトドア用にデザインを加えたのはどのような点だったのでしょう?

実は、僕が作るギアってほぼデザインしていないんですよ。(笑)

「こうだったらいいな」という要素を組み上げると、ある程度の形はできるんです。

例えば「38パレット」は

・立って作業や交流ができる三脚テーブルにしたい

・シェルコン(シェルフ・コンテナ)のフタにもしたい

・バレットだけでも自立させたい

この3つが絶対に外せない要素で、それぞれきちんと実現させています。

日本で使われる「デザイン」という言葉は、イコール装飾のように思われがちですが、僕が考えるデザインは“本質の実現”なんです。

僕が作るギアには説明できない装飾や線は存在していない。

自作したギアに存在している線や装飾は何のためにあるのか、全部説明ができます。

38パレットをスノーピークのシェルフコンテナ25に設置。テーブルに早変わり。

会心のディテールに気づいてもらえるのは、デザイナーの本望

そういった宮崎さんのものづくりへの考えに共感されるお客さまも多いんでしょうね。

自分が「ここが会心のディテールだ!」とこだわった部分に、共感してくれることが一番うれしいですよね。「38パレット」でいうと、車に積むときに、シェルコンの蓋として使っても、揺れたときに金具がカチャカチャ音を立てないように工夫してあるところなどに気づいてもらえて、SNSなどで反応があると、デザイナーの本望だなと思います。

新商品のLEDランタン「38灯(みやび)」も宮崎さんの会心のディテールがたくさん詰まっていそうです。

38灯(みやび)+ ZEROPOD38(ランタンスタンド)。カメラネジが採用されており、双方を接続させることができる。

「38灯(みやび)」でもさまざまな「こうだったらいいな」を実現しています。

https://www.38explore.com/blog/2022/02/03/162421

例えば、暗闇でランタンを点けた瞬間、急に明るくなって「眩しいっ!」となった経験から、点灯の順番は「Low」→「High」→「Off」にしました。

また、筐体の上下にはカメラネジを採用しているので、三脚をはじめとしたカメラアクセサリーに取り付けることも可能です。

そして充電池は入手しやすく、取り替えやすい定番の18650リチウムイオン電池を使用し、タイプCポートで充電できるようにしたので、手持ちのケーブルが活用できます。

さらに上下でリバーシブル仕様になっているのでひっくり返すと2種類の光り方を楽しめます。

あと、とても地味ですけど、カメラストラップ用に使われているフック(別売)を採用しています。倒れにくく、カチャカチャと音が出ないようにもしてあります(笑)。

余計な装飾はせずシンプルに作りましたが、これだけの会心のディテールを詰めこみました!

*カメラストラップ用につけられているフックを採用。

今後はどのようなギアが誕生していくのでしょうか?

近々でいえば、まだ開発中ではありますがアウトドア用の三脚をリリース予定です。

また、将来的には漠然とではありますが、「定番を作りたい」という大きな目標を持っています。自分が大事にしている本質的なデザインをブラッシュアップしていき、時代に左右されない、一生飽きずに使えるモノを作りたいな、と。椅子とかシェラカップとか、種類はなんでもいいんですが、何年経っても色褪せない、例えばジーンズで言えば501のような存在のものを生み出せたら、これ以上のことはないですね。

最後に、アウトドアギアのプロ・宮崎さんのおすすめのキャンプ場やそこでの過ごし方を教えてください。

例えば、平日予約せずに行ける同志村にある椿荘オートキャンプ場は、沢もあって静かですし、ゆっくりできておすすめです。あとは車を停めてから山を登るので少々大変ですが、景色も良い雷鳥沢キャンプ場(富山)もお気に入りです。

昔は登山に行くためのキャンプ、サーフトリップのキャンプ、と目的があった上でのキャンプが多かったのですが、最近は山にあるキャンプ場でとにかくリラックスして過ごすのが好きですね。家ではない特別な空間でありつつも、まるでリビングの延長線上のようにお酒を飲みつつくつろげる、それがキャンプの醍醐味だと思っています。

38explore
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「38explore(サーティーエイト・エクスプロー)」の主宰:宮崎秀仁さん。